雪かき東北縦断の旅

雪かき東北縦断の旅

旅の記録 「雪かき東北縦断」のブログです。期間は2017年1月~3月の2ヶ月間。福島県⇒山形県⇒秋田県⇒青森県と東北地方を雪かきを手伝いながらの縦断に挑戦します!

東北縦断8日目 ~飯豊山の麓町、山都へ~

 ガガガガッ・・・・と耐えがたい轟音を響かせながら、それは再びやってきた。

その音を耳にし、パチリと目が開いた。

暗い、まだ夜が深いのは確認するまでもない。

それでも恐る恐る時計を見た。

ちくしょう・・・・

心の中でそう呟いてしまった。

時間はまだ、2時を過ぎたばかりだった。また・・・・こっ酷い時間に目覚めちまったものである。

その後も昨日と同じ眠れぬまま夜明けを迎えた。

今日も1日、寝不足である!

 

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~朝飯とおばさん~ 

 すっかり明るくなったころ、寝袋から這い出てストーブに火を点けた。勢いよく噴き出る青い炎は冷えたテント内を瞬く間に温めた。暫くそのぬくもりに浸った後、水を張った飯盒を火にかけた。水は沸騰し、ふたを開けて切った野菜と餅、みりんと醤油を入れる。立ちのぼる湯気をジッと眺め、タオルで飯盒の淵を持って少しすすってみた。素晴らしい!上出来だ。(料理名はなんというのか、分からない、スープ・・・かな?)

 外は寒く、ストーブに暖まりながら食べる計画であったのだが、突然気が変わった。ストーブの火を消し、刺すような冷たい空気の外へと出た。

太陽は分厚い雲に遮られ、猛烈な勢いで雪が降っていた。それでもテントは屋根下に張ったので雪の影響は全くなかった。

直ぐ近くのベンチに腰掛け、降りしきる雪を眺めながら先ほど作ったスープ?をすする。温かい液体が、冷たい体の中にスーと流れ込んでゆく。幸せになった。

 そうやって外の雪景色を眺めながらゆったり寛いでいると、車から白いぬくぬくのコートを羽織った上品なおばさんが降りてきて、僕のいる狭い屋根の下に歩いてやってきた。

おばさんはうろうろとなんだか落ち着かない様子である。寒いのであろう。

「おはようございます」僕は一言挨拶した。

おばさんは僕の方に振り向き、そして言った。

「あらら、おはようございます。こんな朝に、あなた一体ここで何をしているの?」

「朝飯食べてるんです。今北へ向かって歩いてまして・・・・昨日はここにテント張って寝て、今、雪景色を見ながら朝飯を食べてるところなんです」

「・・・・こんな所にテント張って、ご飯を自分で作って食べて、歩いて・・・あなた、なんて逞しいのよ!」おばさんは言った。

今回の旅を、バカだと言って否定する人も沢山いた。でも、こうやって逞しいと捉える人もいる。

当たり前だが・・・世には、色んな人がいるものだ。

「私はなんであんな人と結婚してしまったんだろう・・・・。私ね、昔は東京に住んでいたの、東京で今の旦那と知り合って結婚し、こっちに移り住んできたんだけど・・・。もし人生をやり直すことができたら、逞しいあなたに出会えていたかしら・・・?」おばさんはため息をつきながらそう言った。暗くて重いため息だ。

なにか相当な悩みでも抱えているんだろう・・・・。後悔とは凄いもったいないことだ。おばさんの今は楽しく面白くないのだろうか・・・?

せっかく心地よい朝を過ごしていたところを突然暗い世界に飲み込まれそうになり、それを打ち消そうと僕は口を開いた。

今こうして未知の地をじっくり歩いて旅し、色んな人と会って話して・・・・どれだけ面白くて楽しんでいるかを意気揚々と語った。

折角何かの縁で偶然出会ったこのおばさんが、5年10年20年後にまた、あの時こうしていればよかったなどと後悔してほしくなかった。

 別れ際おばさんは言った。

「面白い子ねあなた(笑)これからもう直ぐ”蔵の湯”が開館するんだけど、あなたの事を思いながら温泉に入るわ!なんだか今日一日に楽しく過ごせる!」

それを聞いて弾けるように気分が跳ね上がった。

雪は変わらず降り続いており、冷たい風が吹き込んで、僕らを突き刺してくる。

温かいテントに入っていればそれはそれで快適に朝食を済ませれたのだろうが、これはこれで温かい朝飯であった。

 

山都町へ~

 

~まっ黒い旅人~

浅見さんが住む山都町へ行くには、昨日歩いた道を数キロ戻って峠を一つ越え、西の方へ15キロほど歩かなければならない。テントを畳んで荷を整えると、丁度トイレ休憩に来ていたおじさんが傍に居たので、喜多方市内のホームセンターまで乗せてくれないかと頼んだ。ぐしょぐしょに濡れる登山靴を止め、長靴に変更することにしたのだ。

乗せてくれたおじさんが、山都まで行くには道が複雑だというので地図を描いてくれた。また、長い峠を1つ越えなければならなく、峠の道中店も家も何もないので、峠を越える前に麓の部落の民家で一休みした方が良いと助言をしてくれた。

 雑で読みにくく・・・いや読めない地図を片手に町中を暫く歩くと、広がる白い平原を分かつ様に流れる川が現れた。その川架かる橋を渡ると町を抜け、遮るものが無くなった視界が一気に広がった。

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遠く、低い山々が壁の様にずらりと並び、その麓には雪の平原が一面どこまでも広がっていた。ぽつぽつと古民家が散らばっている。

ここまで数キロの間、狭苦しい町中を歩いていたものだから、目前に一気に現れたその広がりは、気分を一瞬にして爽快にした。こういう単純な気分の浮き沈みがまたいいものである。 この風景を思い切り堪能しよう!

  暫く歩くと道は峠に差し掛かった。坂道は結構な斜度がある。

 左右に民家が立ち並んでおり、おじさんの助言に従おうと、そのうちの一軒の戸を叩いた。

「はい。」腰の曲がったお婆さんさんが居間の流れの悪い扉をガラガラ開けて、現れた。

「すみません、突然。これから山都へ行くんですが、水を、コップ一杯水をください」

「水ね、ちょっと待っててくださいね」そう行って奥に消え、手にコップとみかんを持って戻ってきた。

「この雪の中を、歩いてるのかしら?」お婆さんさんが尋ねてきた。

「はい、山都に会いたい人がいまして・・・」

「修行ね。これで2人目よ、あなたで2人目。40年前にも一度あなたみたいに歩いてた人が来たの。その人はなにかの研究者って言ってたわね。本を書いて売るんだって、成功して売れたらずっと飯が食っていけるんだって言ってたわ。一度も、断じて風呂に入らないって人でね、まぁ汚いの!垢で顔も体も真っ黒だったんだから!」ばーさんは笑っている。「あなたを見て思い出したわ、なつかしいわ。あの人は今どうしてるかしらね。生きてるかしら。世の中広いから、あなた達の様に変わった人がいる方が面白いのよ!どんどんやりなさいね」

風呂に入らず、真っ黒の研究者とは一体どんな人物なのだろうか、ここへきて40年前のこのお婆さんとどんな会話をしたのだろうか・・・

僕が戸を叩いたことで、40年前に訪れたという真っ黒い旅人をばーさんの記憶から呼び覚まし、微小ながらも不変な日常に刺激をもたらすことが出来ただろうか。

気が付くと玄関で話をし、20分程も経過していた。

「ここへ来たときまた寄ってくださいね。私もう90を超えてて、一人で生きているの。その時はもう生きているか分からないけど」お婆さんは言った。

※40年前に訪れた真っ黒い旅人がもし、もしこれを見て思い出したなら、この峠の麓のお婆さんに会いに行ってください!

 

 2つほどカーブを曲がって坂道を上り、峠道は下り坂に変わった。グネグネとくねる道を下って下りると、平地に出た。川にかかる橋を渡って歩くと、小さな落ち着いた町に入った。飯豊山のすそ野に栄える町、山都である。

浅見さんがこの町のどこかにいる。けれど、どこにいるのか分からない。

時間は昼を過ぎていた。電話を入れるが繋がらない。きっと忙しいのだろう。

通りすがった住民に、浅見さんて方の事を訪ねると、「直ぐそこの”千”って喫茶店によくいるよ」と教えてくれた。

早速その千に行く。店は古民家を改装し、とても落ち着いた雰囲気を醸し出している。

sabou-sen.chu.jp

 

 

 しかし、千の入り口にはCloseと木札が掛けてあった。ガラスを通して中を覗くも店内は暗く、誰もいない様だ。

どうしようか・・・思い悩んで右を見てみると、すぐ隣に稲庭商店という古臭い商店があった。

中にこたつがあり、2人のおばさんがくつろいでいた。

戸を開けて、閉まっている千の事を訪ねると、待っていれば店のあるじである秋庭さんて女性が来るかもしれないから、それまでこたつの入ってあったまれ!と招かれた。

雪は湿っていて全身びしょびしょになってしまっていたので、助かった。

 「みんな男よ。あたしの子も孫もほとんどが男。男、男、男・・・・女っ気がひとっつもないのよ!!どーいうわけえだか・・・」おばさん達は自らの家族構成の謎を熱く語りだす。「で、あなた兄弟は?」

「僕も、3人兄弟で・・・」

「また男かいっ!!?どーなってんだい!!!」ゲラゲラと笑い出す。

 飯豊山の登山が盛んな頃、活気づいていたこの町で、和菓子を作って売っていたというばーちゃん達。それで登山者も減り町の廃れてきた頃に和菓子屋をやめ、今は商店を細々とやっているそうだ。

 こたつに暖まりながら、頻繁にきていたという田部井淳子さんの写真やら、自分たちが飯豊山に登った時の写真なんかを見ながら談笑をした。面白く温かいばーちゃん達であった。

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 2時間ほど経った頃、秋庭さんが千にやってきて、間もなく浅見さんもやってきた。

 2人とも都会から越してきたという方々で、独特で個性豊かであった。

ひぐらし農園のその日暮らし通信

(上記は浅見さんのHPです)

 

 暫くコーヒーを飲んで話をし、日が暮れた頃浅見さんの家に招かれた。ありがとうございます!

町から離れた山奥、深い雪に埋もれるように山奥に建つ古民家に2人の娘さんと夫婦と2匹の猫と犬とで暮らしていた。

「からしは?からし」浅見さんが言った。

「からしは嫌!わさびがいい!」娘さんが言い返す。

「いや、からしにしよう」浅見さんも言い返す。

「嫌!わさび!!」

「からし」

「わさび、わさび!」

娘さんと、一昨日連れてきた新しい子猫の名前を決める戦いを浅見さんは繰り広げていた。名前は結局何になったのだろうか、それは聞いてないので分からない。

ともかくも、この2日間、寝不足であったため、今夜は除雪車のあの轟音の脅威を臆せず、ぐっすり眠れそうである!

 

2017年1月12日