雪かき東北縦断の旅

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雪かき東北縦断の旅

旅の記録 「雪かき東北縦断」のブログです。期間は2017年1月~3月の2ヶ月間。福島県⇒山形県⇒秋田県⇒青森県と東北地方を雪かきを手伝いながらの縦断に挑戦します!

東北縦断6日目後半 ~会津若松へ~

 西山温泉を背に、峠道を柳津の町へ向かって歩き始めた。
車の殆ど通らない峠道はシンと静まり返り、雪だけが弱まることなく降り続けていた。
雪を被った山が回りを囲み、民家のない道が何処までも続いている。
寒い。小さくて冷たい無数の雪が、頬っぺたに触れては溶けていった。
“下の湯”の熱い湯で暖められ火照っていた体がみるみる冷えていった。
しかし、暫く歩いていればまた暑くなってくるはずだ。
それにいつか車が走ってくることだろう。
その時、ヒッチハイクをすれば良い。
それまでのんびりと歩いていよう。
これから柳津へ戻り、12キロ程離れた坂下町まで歩こう、北上だ!


~悲しき2人の男~

暫く歩くと、先ほど通り抜けたスノーシェッドの中から大型車の唸る走行音が響いてきた。
音はどんどん大きくなってゆく。
バスかトラック、どちらかだろう・・・
そう思って振り向くと、間も無くスノーシェッドの出口からバスが飛び出してきた。僕は手を振り回した。
バスは僕の横で停まり、間もなくドアが開いた。
乗客は他に誰もいなく、運転手が嬉しそうにこちらに顔を向けていた。
「乗りな乗りな!」
 ザックを積み込んで椅子に腰かけると、雪の降る中をバスは走り出した。
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「兄ちゃんその大荷物、山だろう?一体何処の山に登るんだ?」運転手は嬉しそうに話しかけてきた。「俺も山が大好きなんだ!」
日に何度も往復するも乗る乗客は殆ど居なく、相当退屈なのだろうか。そんな所へ、大荷物を背負った得体の知れない奇妙な男が乗って来たという訳だ。
「俺はな、ここいらの山で生まれ育ったんだ。山が好きで好きでな、夏になれば米と味噌を持って俺は何日も山の中に籠るんだ!夏場、山で生きてりゃ家なんてもんはいらんよな?あぁ早くこの仕事を引退してぇな・・・さっさと引退して、生まれ育った山へ帰って山菜と岩魚を採って俺は生きていくんだ!」
鏡には嬉しそうな笑顔が写っていた。
が、その笑顔が突如曇った。
「でもな、それには問題があんだ。嫁さんが山は嫌だってついてこねぇんだよ・・・」鏡に映る顔からは笑顔が消えている。「な、悲しいだろう?」
 会話が一息つくと何だか眠くなってきた。首からぶら下げていたカメラを手に、今まで撮った写真をモニターで確認する。
すると、モニターには虹色のモザイクがザ…ザザザと躍り狂っていた。
初期不良を起こしていたカメラは、完全にイカれちまったようだ。
一刻も早く会津若松のコジマ電気へ行かなければ。9日より代替品が用意されてあるコジマ電気へ。
 ため息を漏らしてカメラの電源を落とし、窓の流れる雪景色を眺めた。降る無数の雪が後方にすっ飛んでいる。一眠りしようと目を閉じた。
運転手のおじさんは悲しいだろう。奥さんが山が嫌いで・・・
僕も悲しい。カメラが完全にいかれちまったから・・・
悲しみに暮れる2人の男を乗せたバスは峠道を下っていった。

~坂下、会津若松へ~

 しばらく走ってバスは柳津へ到着し、運賃100円を渡してバスを降りた。
早くカメラを治してパシャパシャ写真を撮りたい!ここから会津若松のコジマ電気までヒッチハイクをしてしまおうか・・・
しかしまだ時間に大分余裕があった。
迷った挙句、とりあえず12キロ程離れた坂下まで歩くことにした。
時間は14時を過ぎている。
252号線を歩き、町を離れるにつれて建物の数は徐々に減っていった。代わりに一面真っ白な田畑が現れ、暫く続いた。
雪はみぞれに近い。レインウィアに触れる雪は直ぐに溶けていった。
積もっている雪はべちゃべちゃで、猛スピードで走る車がそれをビシャビシャとはね飛ばしてくる。
履いている登山靴は一応ゴアテックスなのだが・・・長い事べチャ雪に晒されて、もう既に中が浸みてきていた。
道路は49号線にぶつかり、道幅が大きくなって交通量がグッと多くなった。
16時を過ぎ、トンネルを抜けると緩やかな坂道が真っ直ぐに伸びていた。坂下の町はもう目先にあった。
トンネルを出た直ぐの駐車場に一台の赤い車が停まっていた。
この車は・・・会津若松まで行くだろうか。微かな期待を込めて、僕は窓を叩いた。
運転手は40~50歳ほどの女性であった。
窓を叩く僕に気がつき、勢いよくドアが開いた。
「え、え!!君、前に何処かで会ったわよね???」女性は驚いていた。「会ったのは何処だったっけ・・・あれ、思い出せない・・・」
「どこかで会いましたか?僕は会った覚えはないんですけど・・・ついさっきまで西山温泉に居ました」女性の顔は全く記憶に無い。
「そうだ!そうだそうだ!西山温泉だ!西山温泉の道路を歩いているのを見かけたのよ!あれ、あの人は一体何処の山に登るのかな~って気になってたの!私も登山が好きでね、給料もボーナスも殆どを山に注ぎ込んでしまってるの!で、今から何処の山に登るのかしら?」女性は言った。
「いや、山じゃなくて、青森の龍飛崎を目指して歩いてるんです。龍飛崎からは北海道が見えるらしいですよ?それを見るんです!!!」
「はあぁ?青森???まぁ乗りな乗りな!!寒いからさっ!」
女性はある大手企業の営業職員であった。
「ほんとは車で吸ったらダメなんだけど・・・私我慢できないの!ごめんね、吸うわ!」そう言って女性はタバコをスパスパと吸い始めた。
山が好き同士、会話は弾け飛んだ。
そして丁度今から会津若松の営業所へ帰るところだったというわけで、コジマ電気まで乗せて貰えることとなった。

会津若松へ入ると雪の量は減り、今までの田舎風景は一変した。
所狭しとひしめく大型チェーン店と引っ切り無しに行きかう車・・・古民家が立ち並ぶ南会津の風景とは大違いだった。
今まで数日間、自然に囲まれた町に身を置きすっかり居心地良くなっていた為、そんな風景に何だか居心地悪く感じた。
僕は思った。早くここを去ろう、と。

コジマ電気で壊れたカメラを新しいものと交換すると、外はもうすっかり暗くなっていた。
これから今日の野宿場を探さなければならない。
僕はとりあえず駅に向かって歩いていった。
何処の町でもそうなのだが、駅周辺が発展し、駅から離れるにつれて段々と落ち着いてくるものなのだが、会津若松はそれとは違っていた。
大通りを越え、駅に近づくにつれて大型チェーン店等の大きな建物は数を減らし、民家が増えていった。
そんな様子に疑問を抱き、すれ違ったおじさんに聞いた。なんでこんな町の作りなのだと。
雪がぱらつき寒いにも関わらず、おじさんは足を止めて教えてくれた。
ここは城下町であり、汽車の線路を開通させる際に、城の近く・町中を貫くことを避けて、田畑の中を走らせたのだという。
だから昔は駅周辺は田が広がっていたのだとか。
 雪がチラチラと軽くちらつき、道路にうっすらと積もっている。
民家の窓から漏れる光が暖かい。
駅へと続く道沿いにガソリンスタンドがあり、ガソリンの補給をしようと立ち寄った。
高校生らしきあどけない顔の2人の店員と、年を大分食った背の小さな渋いおじさんが歩み寄ってきた。
若者の顔はニヤニヤしている。得体の知れぬ僕に興味津々らしい。
「これにガソリンを入れてください」
ザックから出てきた、1リットルの燃料ボトルに戸惑い、おじさんは手に持ってジロジロと見つめる。
「ほれ、やってみな、0.7リットル位だろう」おじさんは少年にボトルを手渡した。
若者は慣れない手つきでガソリンを入れてゆく。
あっという間にドバドバとボトルの口からガソリンが溢れ出してきてしまった。
「あ、あ、あっ」溢れたガソリンを見て、若者は慌てふためいた。
「あああぁ!!だから0.7位だって!もう1リットル入っているがな!!」おじさんは慌ててボロ雑巾を靴で踏み、こぼれたガソリンを拭く。若者はにやけた顔で僕に話しかけてきた。
「これ何に使うんです?これからどこへ行くんですか?」
好奇心旺盛な若者から暫く質問の嵐が続いた。
若者が言うには駅前に地下道があり、そこならばテントを張れるらしい。
再び僕は駅に向かって歩いていった。

会津若松の駅は大きく、コンビニや飲食店が連結していた。
学生やサラリーマンが寒そうに身を強張らせながら行来している。
改札のすぐ横の窓口には、女性駅員がいた。眼鏡をかけて見るからに堅そうな顔をしている。こりゃだめかもしれない・・・そんな予感がしたが僕は聞いてみた。
「あの・・・駅長いますか?」
「駅長・・・は、えっと今日は居ません。なんの御用ですか?」
駅員の表情はピクリとも動かない。嫌な予感がした。僕はその堅い壁を崩そうと、出来る限りの笑顔で尋ねた。
「お願いがあるんです!」
「はい?」怪訝そうに聞いてくる。
少し間を置いて僕はお願いした。「今夜、駅の地下室でテント張って寝ていいですか?」
だが予感した通り、結果は無残なものであった。
そういうことはお断りしてましてと軽くあしらわれてしまった。
「駅の建物の裏側でもダメですか・・・?」
「はい、そういうことはお断りしてまして」再びあしらわれる。
断る表情がまた冷たく、そのあしらわれ方で僕は思った。
あぁこの人にはもう何を言っても無駄だと。
だめだこりゃ・・・僕は降りしきる雪の中を去って行った。
まるでフラれた様だった。
それはそうである。この真冬にテントを張っていいよと許可し、もし僕が凍死でもしてしまったならば、面倒なことになるのは目に見えている。駅員の判断が至極真っ当で、僕の方がおかしいのだ。
降りしきる雪がより一層冷たく感じられた。

外は真っ暗で、駅から洩れる光に降る雪が照らされている。
駅を出て駅前通りをフラリフラリさ迷っていると、小さな商店街の中、一際目立つ宮殿の様な大きな建物が目についた。
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そこは駐車場も広かった。大型車が何台も停められる広さで、車は殆ど無い。
ここならば広いし、きっと張らせて貰えるだろう!小さな希望の火が灯った。
ガラス戸を通して中を覗くと、広い店内は整然としていた。襖で仕切られた個室がいくつか並び、カウンター前のガラス内に寿司が幾つか並べられている。どうやら寿司屋らしく、高級感が溢れ出ていた。
和服を着た若い女性店員が1人、腕をまくって雑巾で掃除をしていた。
店の扉を少し開いて、すみませんと一声かけた。
お姉さんはばっと振り向いて、ちょこちょこした足取りでこちらに近寄ってきた。
綺麗なお姉さんだった。雪で全身が濡れ、デカいザックを背負って小汚い僕とはまるで対照的だった。
顔には笑みが滲み出ている。これまた先ほどの堅苦しい駅員とは対照的だった。
「青森へ向かって今歩いてるんですけど、今晩駐車場の隅にテント張ってもいいですかね?」
それを聞いてお姉さんは吹いた。
「ちょっと待っててくださいね、社長に聞いてきます!」
 暫くすると寿司職人の社長が出てきた。社長の隣に先ほどのお姉さんが立ち、にこにこしている。
「なんなんだお前は!!?テントを張るだって?駐車場の好きな所に張ったらいいぞ!!」
それを聞いて僕は飛び上がった。
「ありがとうございます!床掃除でもトイレ掃除でもなんでもしますんで!!」
 テントを張ってストーブに火を点けた。今日の夕飯はスープだ。飯盒で水を沸かし、白菜とキノコを切っていれる。
すると外から社長の声がかかった。
「ちょっと店の中に入らねぇか?」
 火を消し言われた通り店に入って、テーブルに腰掛けた。客は他に誰も居ない。
「夕飯は食ったんか?」社長が聞いてきた。
「いえ、今作ってたとこなんです。白菜とキノコでスープでも飲もうかと」
「そうか・・・まぁちょっとまってな」そう言って暫くすると、先ほどのお姉さんがどんぶりうどんを持ってきて、目の前に置いた。湯気がもうもうとたち昇り、美味そうな匂いが鼻につく。
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「まぁ食いな。体を温めろ」キッチンで片づけをしながら社長が言う。「何処からきて、何処へ行くんだ?」
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寿司職人と旅人・・・異色である2人の男の語り合いが・・・・幕を開けた。

店の名前は”会津迎賓館 寿し万”
www.aidugeihinkan.co.jp
7人兄弟の端の方に生まれ、親父に一丁前になるまで帰って来るなと追い出されてから60年間、寿司を握り続けている鈴木社長。
「親父の元へ帰る前に、親父は死んじまったんだ」社長は少し下を向いてぼそりとそう言った。

気がつけば店は閉店間際だった。
「兄ちゃん馬鹿なだなぁ!いやぁ面白い!久々に面白い話が聞けた!!兄ちゃん今夜は美味いもんが食えるぞ!」
そう言って、残った料理に、明日の朝ご飯に食ってくれとニシンの笹寿しを握って出してくれた。
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 外へ出ると雪が強さを増していた。
「そんなテントじゃ寒いだろ!ここにある段ボール好きなだけ使え!」
そう言って何人かの従業員が倉庫に束になった段ボールを指さした。
「こりゃぁ兄ちゃん、いいホームレスの練習になるな!」それを見て社長が白い吐息を吐き、笑いながら言った。
僕の頭のなかにぼんやりとホームレスになった姿が浮かび上がってきた。
「またここに来たら顔を出してくれよ!兄ちゃんの様な馬鹿は応援したくなるもんだ!」
「ありがとうございます!そんときはまたテントを張りに来ますので、張らせてください!!!」
降りしきる雪の中、駅前に頭1つ抜き出て立つ大きな寿司屋、そこはとても暖かい寿司屋であった。

2017年1月11日の午後