雪かき東北縦断の旅

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雪かき東北縦断の旅

旅の記録 「雪かき東北縦断」のブログです。期間は2017年1月~3月の2ヶ月間。福島県⇒山形県⇒秋田県⇒青森県と東北地方を雪かきを手伝いながらの縦断に挑戦します!

東北縦断6日目 ~西山温泉へ~

目覚めて入り口のチャックを下ろし、テントから顔を出した。
夜はとうに明け、唸り狂っていた風は収まっている。
雨は雪に変わり、ビチョビチョだった世界を薄く白い雪景色に変えている。
吐く息が白い煙となってユラリと漂っては何処かへ消えていった。
「うぅさみぃ・・・」
再びチャックを上げて入り口を閉め、水の入った飯盒に火をかける。
朝飯の野菜スープが冷えきった身体を温めた。
気分も温まってきた!
今日は西山温泉へ行き、会津若松へ向けて進もう!

~西山温泉へ~
老沢温泉
医師からあと少しの命だと告げられて見放され・・・そんな人が最後、藁にもすがる思いで米と味噌を持って何週間も湯治をやりにくる温泉。
昨日のスーパーで“湯治場・西山温泉”にまつわるこの話を聞いた瞬間、昔、草津温泉でも同じような話を聞いたことを思い出した。
それと同時に、幼い頃親に毎年の様に連れられていた“草津温泉”の懐かしい風景が、脳裏にガーンと浮かびあがった。
その懐かしさは、西山温泉へ行こうか行かまいかフラフラと迷っていた迷想の思いをすっきりとすっ飛ばしてくれた。
ただ西山温泉へ行くには昨日やっとの思いで歩いた道を数キロ戻って、10キロ程山道を行かねばならはない。
ここは・・・ヒッチハイクで行こう!
降りしきる雪の中、僕は道路に出て手を上げた。
数台に見送られた後、ワゴン車が止まり、「山道の前までなら」と作業着を着たお兄さんに乗せてもらう。
車は、痛む足に耐えながら何十分と必死に歩いた道をものの数分で走ってしまった。
流れ去る懐かしき風景を、ぼんやりと窓越しに眺める。
トンネルを抜けるとすぐに山道へと続く分岐点が現れた。
ちょうど赤信号で停車し、そのタイミングでお礼を言って車から降りた。
再び手を上げると、ワゴン車の真後ろを走っていた軽トラが止まった。
西山温泉の近くの部落・久保田に住んでいるというおじちゃんだった。
唸りながら重いザックを荷台に乗せ、温泉へ向かって山道を行く。
山も木もすっかり白く覆われ、奥へ奥へと行くにつれて雪は深くなっていった。
所々にひっそりとした集落がある。かつて桐だんすが何百万で売れていた頃はここ会津林業が盛んで、人々が活気づいていたという。
暫く走ると四方を山々に囲まれ、細々と流れる滝谷川沿いに小さな集落が現れた。西山温泉だ。
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「お勧めは老沢温泉だ。そこはよ、古くて昔ながらの長~い階段を降りていくんだ。すぐ近くに神社があるんだ」おじちゃんが言った。「またどっかで出会ったら乗せてやる!良い旅を、気を付けてな!」
すぐ近くに神社?意味が分からない。おじちゃんは僕に疑問を植え付けさせ、ガタガタと車をきしませながら、雪の降り積もる峠道へと消えていってしまった。
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旅館の近くに神社があるもんだと思っていたが、それらしきものは全く見当たらない。
僕は疑問を抱えたまま旅館の戸をくぐった。
こたつでくつろいでいたおばあちゃんが、重い腰を上げるように立上がり、風呂を案内してくれた。
入り口から左手に進み、風呂へと続く扉を開けると下へと続くトンネルのような長い階段が現れた。
転がり落ちぬよう注意して降りる。
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降りるとすぐに浴室があった。
雪で濡れたジャケットを外してパンツを脱ぎ、ガラガラと戸を開けると、むわっと浴室満たす湯気に包まれた。
湯気で酷く霞む視界を目を凝らしてみると、長方形の浴槽が3つ並んでいる。
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片方の壁は大きなガラス窓になっており、そこから外の景色が見え、すぐ側で2人の作業着を来た男が雪の中を何やら調査をしている。
気配に気がついたのか、男達がこちらに目を向けた。
素っ裸で今まさに湯に浸かろうとしている僕を見てすぐに向き直る。
男で期待外れだったようだ。
湯は熱い。それでも歯を食いしばって身を縮こまらせ、そー・・・っと入れば耐えられる熱さだ。
顔を歪め「ッー・・・」と息を吸いながら浸かってゆく。
ようやく胸まで浸かって落ち着き、辺りを見渡す。驚いた。
入る時は湯気で全く気がつかなかったのだが、壁に神社があったのだ。
おじちゃんが言っていた事がようやく理解できた。
なんの神様か分からないが、湯の中で手を合わせて目をつぶり、無事旅が続けられるよう祈る。
温泉をあがると身体は火照り気分もすっかり緩んでいた。心も体も十分満たされている。
けれどもせっかくここまで来たのだから他の温泉も入らないと!
こたつでくつろぐばあちゃんに、この数多くある温泉でお薦めなのは何処ですか?と聞くと、坂を少し下った所にある“中の湯”と“滝の湯”も良いよと教えてもらった。
早速それらを目指して老沢温泉を発った。

~中の湯へ~
雪は相変わらず降り続いている。
道路を覆う雪が少しだけ厚みを増している。
5分程歩くと川沿いに数件民家が寄り添うように建っていた。
その内の1つに「中の湯」と書かれた看板が目に入り、戸をくぐる。中は広い。
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バタバタと忙しなく走り回る、まだ若い女将に迎えられた。
「朝、温度調節を間違えてしまってね、物凄く熱いと思うから、かき混ぜて入ってくださいね!」そう言って忙しそうに家の奥へと走り去って行ってしまった。
ポツンと取り残された僕は、ザックを下ろし、靴を脱ごうと腰をおろした。
すると、ガチャリと音をたてて事務所の戸が開いた。
「あらあら、いらっしゃい。こんな雪の中をそんな荷物で何処から来られたんです?」おばあちゃんが現れた。先程の忙しい女将とは言葉も動作も正反対で、ゆったりとしている。こちらまで落ち着いてきた。
先程の温泉で身体は火照り続け、まだ湯に浸かる気分でなかった僕は、通されたソファでストーブにあたりながら暫くの間、おばあちゃんの昔話に耳を傾けた。
戊辰戦争敗戦の影響で青森から会津若松へと引っ越し、そのあとここ西山温泉へと来たという家族の話をゆっくりとした口調で語ってゆく。
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ばあちゃんは語りくたびれたのだろう、20分程経つとこと切れたように口を閉ざした。
静まり返った室内に、ストーブの炎だけがモウモウと音をたてている。
火照っていた僕の身体もちょうど冷え、熱い湯を欲していた。
僕は告げた。
「・・・それじゃ、温泉に入ってきますね・・・」
「そうですか、娘が朝湯の温度調節を間違えて熱くなったって言っていたから冷まして入ってくださいね」
戸を開けると、こじんまりした小さな浴槽があり、湯気が白く立ち込めている。
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熱い熱いと何度も告げられていたため、恐る恐る手を触れてみた。
熱くない。全然熱くない。
拍子抜けし、桶で湯をすくい、ザバリと頭からかぶってから一気に胸まで浸かった。
やはり湯は熱くない。むしろぬるい。
温度調節をどう間違えたのだろうと疑問が渦巻くが、考えることを止めはぁとひと息つく。
身体は火照ることなく、何時間でも入っていられそうだ。
15分程経ち、そろそろ出ようかと湯から半身を出す。するとすかさず冷気が無防備な肌に襲いかかり、僕は堪らず生ぬるい湯の中に舞い戻る。もう少し暖まろう・・・と。
だがぬるい湯では一向に温まらない。
寒さを覚悟して湯から半身を出すが、あまりの寒さに覚悟は簡単に折られ、再び湯に戻される。
それを何度も試みるがどうしても湯から出ることが出来ない。
気が付けば30分近くも入っていた。
このままではずっと出られない・・・襲いくる冷気に負けぬ決意を固め、僕は腹をくくった。
浴室を出るとばあちゃんが待っていた。
「熱かったでしょう?」
「ははは」僕はつい笑ってしまった。「凄いぬるかったですよ!出ようにも出られませんでした!」
「あら本当ですか?!それじゃ今、お客さんが居ないから、女湯にでも入ったらどお?女湯なら温かいですよ!」
僕は丁重に断り、次なる湯を目指すことにした。

~下の湯へ~
滝の湯は、女将が最近亡くなったために営業しておらず、近くの下の湯に入ることにした。
雪を被ったつり橋を渡ると、孤立した場所にポツンと一軒だけ民家が建っていた。
戸を開けると同時に、テレビの爆音がガガーンと耳を貫いた。
おばあちゃんがこたつに入ってTVを見てくつろいでいた。耳が遠いのだろう・・・
雪と共に入って来たけったいな僕に気がつき何か言っている。が、TVがうるさくて何も聞こえない。
僕は靴を脱ぎ、おばあちゃんに歩み寄った。
荒れ狂うTVの騒音に紛れて「ここは泊まれないよ」と辛うじて聞こえた言葉。
僕は泊まりに来たのではなく、温泉に入りに来たのだと叫び、入湯料400円を手渡して騒音から逃げるように湯に向かった。
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浴槽は2つあり、そろりと手を入れてみる。
とたんに手を引っ込めた。
なんて熱さだ。まるで熱湯!
老沢温泉など足元にも及ばぬほどの熱さであった。
それでも何とか入ろうと、右足を入れてみる。
「アッチィッッッ」思わず叫んで、直ぐに足を引っ込めてしまった。
湯が熱すぎるのだ。
老沢温泉、中の湯とは比べ物にならぬほどの温度である。
それでもどうにか入らなければと足を入れるが、直ぐに引っ込めてしまう。
「アッチアッチィッッッ」
静かな浴室に響き渡る苦痛の叫び声。広間では同じくTVの騒音が響き渡っていることだろう。もの静かな集落に、頭1つ抜きん出て騒がしい温泉である。
足を入れては引っ込め、入れては引っ込め、ようやく身体を浸けたと思ったら5分も経たぬうちに湯から抜け出した。
鏡に映る身体からはモウモウと湯気が立ち上ぼり、茹で蛸のように真っ赤ッか。
広間に戻ると、おばあちゃんはTVの音量を下げて話しかけてきた。
「そんな荷物で何処へ向かうんだ?」
「青森目指して歩いてるんです」
「青森???こりゃたまげた・・・ちょっと待ってな」
そう言って部屋の奥からミカンを3つ持ってきて、手渡してくれた。
「夏は私は息子と農作業で外へ出て家を空けちゃうから、ここは冬だけしかやってないの。これ、食べながら歩きなさい!」
一軒一軒がとても濃い温泉であった。
5~6軒は入ってみようかと意気込んでいた僕の心は十分に満たされ、まだまだ多くの未知なる温泉を残し、僕は西山温泉を去ることにした。

2017年1月11日午前