雪かき東北縦断の旅

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雪かき東北縦断の旅

旅の記録 「雪かき東北縦断」のブログです。期間は2017年1月~3月の2ヶ月間。福島県⇒山形県⇒秋田県⇒青森県と東北地方を雪かきを手伝いながらの縦断に挑戦します!

東北縦断5日目 ~面白いスーパーのある・柳津へ~

6時20分、パチリと目が覚めた。
腹が一杯だ。物質的な満腹感ではない。
気持ちの面で腹が満たされているのだ。
昨日潤さんと会ってから寝るまでの約12時間、尽きることの無い話題を永遠と語り通した。
今まで知らなかったこと、ものの考え方、捉え方・・・昨日の会話は、僕が今まで頑なに保っていた常識をぶち破り、世界を大きくしてくれた。
障子を開けて窓の外を見る。昨日ずっと降っていた雨は止み、薄暗い空は晴れ渡っている。
まだまだ金山を見たいが・・・今日はここから30キロほど離れた町・柳津を目指し、名残惜しき金山を去ろう。
今日も1日、良い日になりそうだ。
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(黄色線がルート)
~忍耐強い柿の木~
5日前の出発当初からずっと思っていたが・・・長期長距離を歩くのにも拘らず、荷物が重すぎる。
使うと思って持ってきた物の殆どは、実際には出番が来ず・・・。
どんどんぜい肉を削ぎ落としていかなければ。
通りがかりに見つけた町中の郵便局で、予備にと持ってきた300mlの燃料ボトル、珈琲をお洒落に飲もうという愚かな考えで持ってきたヤカン、読み終わった重たい文庫本「森の旅人」、マッチ4箱を段ボールに詰めて、紙切れに「元気です、これらを机の上に置いといてくれ」と文字を殴り書き、家に送る。
幾分軽くなった様な気がするが、まだまだ重い。

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山あいを悠々と流れる只見川に沿って、吹き抜ける涼しい風に、カランコロンと乾いた杖のつく音を響かせながら歩いて行く。
進むにつれて民家と田畑はその数を減らしていった。山が身近に迫り、道は山道に差し掛かる。

ピー・・・と鳥の鳴き声が空から聞こえ、見上げると、2羽のカラスが鳶を追い回していた。
珍しい光景に気を奪われ、足を止めてじっと3匹を見守る。3匹は何回か円を描くように飛び回り、山の影へと消えていった。

暫く行くと道路のすぐ脇の線路に柿の木が1本、雪の中に寂しげに生えていた。
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濃オレンジ色の実は熟しきり、線香花火のプルプルした火玉の様に今にも落ちてしまいそうだ。
誰の柿だろうか・・・回りに民家はない。
膝下まである雪を掻き分けながら柿の木に歩み寄る。
下を見ると幾つもの動物の足跡が、柿の木に向かって伸びていた。僕と同じような奴等がいるようだ。
一番低い柿に向かって手を伸ばしたが、いま少し手が届かず、杖で柿を突っついた。柿はプランプランと揺れる。が、しぶとく枝にしがみついている。
風が吹けば落ちてしまいそうなその姿は見かけ倒しか・・・
今度は枝をバシッと強く叩いた。柿はユッサと揺れるが落ちてこない。
バシッバシッともう少し強く叩くと、ボタボタッと音ともに2つ落ちた。
杖を投げ捨てて、落ちた柿を探す。
1つは草むらの中に落ちてしまったのだろう、見つからず、もう1つは丁度柔らかい雪にめり込んでいる。
実はブニブニで、皮はペロリと簡単に剥けた。しゃぶりつく。
じゅくじゅくに熟し、まさに濃厚な柿ジュースだ。
食べるというより、飲むといった方が良いかもしれない。
ゴマ粒程の大きさであった何ヵ月も前から、雨風雪にずっと耐え続け、今日まで生き残った強き柿達。
その忍耐力は僕の活力を大いに奮い立たせ、熟成された甘味は空いた空腹間を満たしてくれた。
これからもっと厳しくなる環境で、この柿の木は、多くの生き物にその力を分け与えることだろう。


~つるの湯~
三島町に入り、峠道の脇にほんの小さな集落が現れた。「つるの湯」と書かれた看板が目に入る。
いい湯だから是非入った方が良いと今まで出会った皆が口を揃えて言っていた温泉である。
時間は11時、体はまだ疲れていなく、むしろ何処までも歩いて行けそうな程筋肉が高ぶっている。
ここでひと息ついて、折角やる気がでてきて引き締まった筋肉を緩ませるのは勿体無いな・・・
僕は看板を見なかったことにして、通りすぎた。
少し歩いて行く立ち止まり、名残惜しげに振り返る。
折角だからやっぱり入って行こうか・・・誘惑に揺らぐ素直な気持ち。いや、進めるときに進もう!誘惑を打ち破る鬼のような気持ち。
接戦が繰り広げられ、数分後、僕はやはり見なかったことにして、つるの湯から遠ざかって行った。
次来たときは必ず入ろう!それまで思いきり美化してやろう!!
温泉は峠道に消えていった。
潤さんから聞いたつるの湯にまつわる話に、こんなものがある。
目の殆ど見えなかった知り合いのじいさんが、何年もつるの湯に通い、飲んで体に良いはずなんだから目にも良いはずだと目を洗い続けたそうだ。
すると老眼は治り、視力が回復したというのだ。
一体どんな温泉なのだろうか・・・想像すると今でも身と心が引き寄せられる。

~明太子~
つるの湯を過ぎて暫く行くと、長そうなトンネルが現れた。その左脇に、まだトンネルが掘られる前まで使っていたのであろう旧道があった。
迷わず旧道に進んで行く。
脇から覆い被さる木々に、秋の紅葉を思わせる色とりどりの枯れ葉が道路に降り積もり、枯れ枝がそこいらに横たわっている。ガードレールは茶色く苔むし、見事なまでの荒れ果て様だ。
人も車も殆ど通らないのだろう。
山の内部からトンネルを走る車のか細い走行音が、ときたま低く響いてくる。
体を無理やり貫かれ、汚い排ガスを直接体内に撒き散らされているこの山は今一体どんな気分なのだろうか・・・。怒ってるし悲しんでるに違いないよな・・・そんな思いがふと浮かび、今後トンネルを通る際には、山に謝りながら通ろうと思う。
今までの道路の喧騒から離れて、ピーチクパーチク鳴く鳥の声が鮮明に聞こえるようになった。
ザックを広げ、2日前にこうたろうさんの奥さんに握って貰ったおにぎりにを1つ取り出す。
サランラップをペロりとめくり、二口かぶりつくと、ブリュッと辛子明太子が飛び出てきた!
疲れた体を、ピリ辛いちっちゃな卵の一粒一粒が癒してゆく。
サランラップを閉じ、食べかけのおにぎりをポケットに突っ込んで、再び歩き出す。
30分もしないうちに腹が減り、ポケットから先程のおにぎりを取り出してかぶりつく。
再び明太子が疲れを癒す。
ご飯は3回目でなくなり、ラップに明太子がいくつかくっついている。
柳津まであとどれ程の距離なのか・・・限られた食料、ちっちゃな1粒の卵も無駄にはできない。くっついた明太子を1つ残さずすいとった。
常に食い物で満たされていた今までの生活ではこんな事はやらなかった。
それに気がついた今、これからもこの気持ちを忘れてはならない。

~スーパー~
晴れていた空はいつしか重い雲で覆われて、ポツリ・・・ポツリと小雨が降り始めた頃、奥会津の玄関口・柳津にたどり着いた。4時を過ぎている。
日本三虚空藏の1つの寺があり、その建立の際の材木運搬に難行していたところ、何処からともなく現れた赤い牛がそれを手伝ったことから、首をゆらゆらと振るう赤べこが生まれたとされている。
僕の前にも何処からともなく赤い牛が現れて、乗っけてってもらえれば、どれだけ助かることか!
道の駅・会津柳津に立ち寄り、今晩屋根の下にテントを張らせてくださいとお願いする。
快く許可してくれたおばちゃんは、売店にあった試食用のキムチを閉店したら捨てることになるからと全てくれ、寒いからと甘酒を水筒に入れてくれた。ここら辺に古臭く風情のある温泉はあるかと聞くと、見なかったことにして通りすぎた「つるの湯」、たどり着くほんの少し前に雨が降りそうで見向きもしなかった「西山温泉」、この2つだと言う。
西山温泉か・・・西山温泉の事を頭に浮かべながら近くの「かねか」というスーパーで晩飯の鍋の具材を買いに行く。
レジの若く小柄な女の子に、「西山温泉ってどんなところですか?」と聞くと、「え、え・・・西山温泉ですか、え・・・そうですね・・・」と慌てふためき始めた。その慌てぶりは凄まじい物で、チョコチョコチョコチョコ身を動かし、ゴニョゴニョ何かを言っていたが何を言ってるのか聞き取れず。その姿は可愛かった。
僕らの会話は回りのレジの女性に、他の並んでいた客にも波及し、レジの回りに5人程の小さな人だかりができた。皆やるべき仕事をほっぽりだし、あーだこーだと西山温泉の事に議論を交わし始める。
みたことのないその光景がたまらなく新鮮だ。
話題は西山温泉からそれて、いつしか僕の旅へと移っていった。
どっから来たのか、熱でもあるのか、何で歩いてるのか、何処で泊まるのか・・・
女の子に去り際に貰ったレシートは、金額と数字がめちゃくちゃだった。
動揺して手元が狂った様である。
柳津とは面白い町である。
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