雪かき東北縦断の旅

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雪かき東北縦断の旅

旅の記録 「雪かき東北縦断」のブログです。期間は2017年1月~3月の2ヶ月間。福島県⇒山形県⇒秋田県⇒青森県と東北地方を雪かきを手伝いながらの縦断に挑戦します!

東北縦断4日目 仙人に見えた老沼さん

扉の向こうからガタゴトと聞こえる音で目が覚めた。夜明け前、部屋は暗く、布団から出ている顔が冷たい。
極寒の地である布団の外へ出なければ。
と思うも出るのが非常に辛い。
出なければ、でも1歩が中々出ず・・・それでも出なければ・・・躊躇ってはダメだ、意を決して勢いよく布団をはいだ。こういう時は勢いが何よりも大事なのである。
待ってました言わんばかりに、一瞬にして冷気が全身に襲いかかる。
身を震わせ、寝起きで朦朧とした意識の中、洗面所で歯を磨き、ダウンを着て外へ出る。
日の出前で、まだ外は青暗い。
昨晩降っていた雨は雪に変わり、道路も木々も屋根も車も白く覆われている。
こうたろうさんは犬を連れて、先を黙々と歩き始めていた。
寒さをどう感じているのだろうか、縛られていた縄から解き放たれた犬は狂った様にきゃんこら鳴きはしゃぎ、足跡のついていない無傷な真白の雪面に、細く小さな足跡を付けている。散歩が相当好きなのだろう。
僕は小走りでこうたろうさんの後を追いかけた。
昨晩寝る前に、犬の散歩についてくれば鹿に狸、狐にウサギの足跡が沢山見れるよと言われたのだ。
これは狸だね、これは狐、足跡を発見する度に僕に丁寧に教えてくれる。それを眺めてただただへぇぇと感心する。
暫くするとやってはいけない過ちに気がついた。
降る雪が溶けて、ダウンが濡れているのだ。
雪の世界を徒歩で旅するにあたり、絶対にダウンを濡らしてはいけない。
オーバージャケットを着ないで出てきてしまった初歩的なミスだった。
ダウンに降り積もる雪を忙しなく手で払い除ける。払い除けるもひっきりなしに降り積もる雪。
これは兎だね、こうたろうさんはそんな僕に丁寧に教えてくれる。
しかしこれ以上濡らすまいと、払い除けるのに夢中になってしまった僕はもう足跡処ではなくなっていた。
これは・・・大きい足跡だ。鹿かな
へぇそうなんですか!
中身の無い相づちを出すも、気は別の所にあるのであった・・・
こうたろうさんの親切に答えられず、申し訳ない気持ちで散歩を終えてしまった。
あまり良くない1日の始まりである。
今日はこの金山町に移住してきた、世界・日本中を旅したという老沼夫婦にあうのだ!


~忘れ物~
こうたろうさん家族と別れた僕は、是非入った方がいいと熱く勧められた温泉に向かった。
国道400号線沿い、知っている人しか決して分からぬであろう抜け道のような、雪の被った小さな階段を下ってゆく。直ぐに川沿いに小さな小屋か現れた。木の板に書かれた文字・「亀ノ湯」。
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金山町の秘湯、小さな共同浴場だ。
後ろからズボリッ・・・ズボリッと音がした。振り返ると腰の曲がったじいさんがズボズボと雪をかき分けて歩いてきた。
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「おはようございます!」
挨拶をするも、返事は無い。
そのかわり指で自分の耳をくるくると指差した。
どうやら耳が聴こえないらしい。
扉を潜ると直ぐ左右にしきりの無い男女更衣室があり、水着・タオルを着用しての入浴はご遠慮下さいとの注意書が目に留まる。
目の前にモウモウと白い湯気をあげて、暖かそうな湯が横たわっていた。
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じいさんと僕は黙々と服を脱ぎ、冷えきった湯にチャポリと身を浸した。体は一瞬で暖まり、湯気と共にほのかな木の香りが鼻を突き抜けた。
横目でじいさんを見る。目をつぶり、とても幸せそうだ。
暫くするとじいさんはゆっくりと湯を上がり、あぐらをかいて風呂桶を股に挟み、髭を剃り始めた。シュリッ・・・シュリッ・・・静かな剃る音が鳴り響く。
その音に呼応し、僕は手で顎を撫でた。
髭が少しのびている。
湯を上がり体を拭いて更衣室に行き、剃刀の入った洗面用具を出そうとザックに手を突っ込んだ。
無い。ザックのポケットを全て開け、荷物を出してゆく。
無い。洗面用具が無い。狭い更衣室はあっという間に僕の荷物で散らかった。
そうこうしてる間に体が冷えてきた。
たまらずドボンと湯に戻る。
じいさんは静かに髪を洗っていた。
僕は暫く体を暖めてから再びザバリと湯を上がり、更衣室に向かった。
ガッサガッサガッサガッサ・・・ザックの荷物を全て取りだし、更衣室に荷物の山を積み上げたが結局見つからず、こうたろうさん家に忘れたと結論に至った。
取りに戻るしかないか・・・だが、その事に気を取られちゃいけない。今はせっかくのこの湯を堪能しなければならない。
じいさんは事を済ませて再び湯に浸かって、ガサゴソと忙しない僕を静かな眼差しで眺めていた。
僕はポチャリと湯に戻り、再び浴室は静けさを取り戻した。
5分ほどたっただろうか、扉がガラガラと開き、「あ、良かったまだいた!これこれ、忘れたでしょ!」と、こうたろうさんの父が洗面用具を片手に現れた。
僕は申し訳なささと不甲斐なささで一杯になった。
これから長い旅路、この忘れ癖は一体どれ程の人に迷惑をかけるのだろう。
今日限りでこの悪い癖は治さなければならない。
じいさんは僕らのやり取りをじっと静かに見つめていた。

~金山町の移住した仙人のような人~
老沼さんて言うんだけど、日本と世界中をあっちこっち旅してね、やはり君みたいな人で、金を稼ぐばかりの毎日に疑問をもって、最近この町に移住してきたんだ。話が合うと思うよ!どう?会ってみたい?
別れる前にこうたろうさんは僕に尋ねた。
僕はそれに、はいと迷わず速答した。

町から少し離れた山を暫く上ると、5軒の民家が立ち並ぶ集落に行き着いた。
去年の6月、築100年にもなる空家を65万円で購入し、自分達で修繕しながら半自給自足で生活している老沼潤・飛野さん夫婦。
家ノ裏にはチャパチャパと音をたてて、湧き水が止めどなく涌き出、赤々と静かに揺らめく薪ストーブの炎が部屋を暖めている。
「今の時代、金を稼いでなるべく使わないように節約している人が多いと思うけど、俺達はいかに金を稼がずに生きるかを大事にしてるんだ。すると自ずと生活が豊かになっていくよ!」
薪ストーブの燃え盛る炎の中に、貰ってきたという廃材を入れながら、落ち着いた雰囲気で老沼さんは話す。
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日本昔話に出てくるような、古い空気を感じ取った。
ここならばあるかもしれない!
そう思った僕は訪ねた。
「マメ柿の干柿ってありますか?」
「うんあるよ!」
心が飛び上がった。
昭和村からずっと楽しみにし、一時はもう作ってる人はいないと告げられて諦めかけた干柿が目の前に置かれた。
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マメ柿の渋味は非常に強く、昔は紙に擦り付けてその強い渋を紙に張り付けていたという。すると水を通さぬほど紙が丈夫になり、それを畳や御座なんかに張り付けて加工していたという。
それほど渋味が強いので、干したときに甘味が強くなるのだ。
また風が強い地に適した干柿作りは本来、風の少ない金山町には向いてなく、それで通常の大きな柿と比べて乾燥しやすい小さなマメ柿が金山町には向いていたという。
僕はムシリッとかぶりついた。ねり飴のようにネチっとし、濃い甘味が口一杯に広がった。
昭和村で抱いた小さな願いが叶い、これで金山町を心置きなく去れることであろう!

~幸せなショウジョウ蝿~
日本酒をチビりと飲んでいると、一匹の小さなショウジョウバエが細かに羽を羽ばたかせ、どこからともなく飛んできて空いた小皿の縁に止まった。
凍てつくこの極寒の1月に、こいつはなぜ生まれてきたのだろうか。
行末を見ようと、僕はじっと見つめる。
ハエは縁をちょっと歩き、料理の汁がより多く残っている皿の中心部へ向けて降りていった。
皿の表面は料理の油でぬめっている。
あろうことか、次の瞬間そいつは足を滑らせてひっくり返った。仰向けになったハエは起き上がろうと必死に足をばたつかせている。
何とか元の体勢に戻ることができたが油が羽にくっついたのか、飛ぶことができずよたよたと皿の縁に戻り、ポトリッとテーブルに落ちてしまった。
その後の歩いて行き、皿と皿の暗い谷間へ消えていってしまった。
姿が見えなくなったことで気はショウジョウバエから逸れてその存在を忘れ、僕は潤さんとの会話に戻っていった。
数時間後、夕飯を食べていると、今までどこにいたのか、そいつは再びどこからともなく飛んできて料理の皿の縁に止まった。
そのハエを見て僕は言った。
「ここにショウジョウバエが居るんですけど・・・こいつは凄い幸せな奴だと思うんですよね」
「このハエね、なんか3日くらい前からいるんだよね」飛野さんが優しい声で答えた。
「あ、飛野も気がついてたんだ」
潤さんが続いた。
僕はそれら言葉の意味を理解し、感銘を受けた。

寒い1月に生まれるハエはもういないかもしれない。生物にとって持って生れたて役目である子孫を残すことは、このハエには難しいかもしれない。
でも暖かい部屋で、死の危険を伴わずに美味しい飯にありつけるショウジョウバエ
もし、僕の実家で生まれていたのであれば、ハエに特に敏感な親父に直ぐにはたき殺されていたであろう。
ハエはじっくりと飛野さんの美味しい手作り料理を味わっていた。
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2017年1月9日